樽(カスク)はウイスキーの風味にどのようにして影響を与えているのでしょうか。
【充填強度による違い】
まず、同じ樽であっても、樽に充填する際のアルコール濃度によって最終的なフレーバーは異なってきます。樽の材料(木材)に含まれる特定の化合物は水溶性のためアルコール濃度が低いほど効率的に抽出されますが、ラクトン(食品に多く含まれる香気成分)のような化合物はアルコール濃度が高いほど溶けやすいのです。よって、蒸留後にできたNMS(New Make Spirits)を樽に充填するときのアルコール濃度はとても重要で、風味に大きな影響を及ぼします。
【木材の種類による違い】
オークの種類が異なれば抽出化合物の含有率も異なるため、最終的なウイスキーの独特の風味づくりに影響を及ぼします。例えば、オーク材に含まれるオーク・ラクトンの異性体のうちシス(Cis)異性体は、ココナッツやバニラなどオーク由来のアロマとフレーバーの元になっていますが、ヨーロッパ・オークよりもアメリカン・オークにより多く含有されています。
以前ワインが充填されていた樽は、元バーボン樽と比べると、より複雑な抽出化合物をスピリッツに届けることができます。 過去30年にわたり、バーボン樽で熟成したウイスキーはその後ワイン樽(シェリー、ポート、マデイラ、またはシャルドネ)で仕上げられるのが一般的になりました。
カスク・フィニッシュのプロセスは、1980 年代後半にグレンモーレンジィによって開拓されました。この仕上工程でさまざまな色と風味が得られます。 たとえば、ポート・カスクからは明るい赤みがかった色と甘くてチョコレートのようなフレーバーを与えることができ、赤や白ワインのカスクではまた別のさまざまな色とフレーバーが生成されます。
【バージン樽と詰め替え樽の違い】
樽の使用回数もウイスキーの風味に影響します。未使用の樽は、詰め替え用の樽に比べて比較的迅速に抽出物を与え、2回目、3回目または4回目の樽よりもウィスキーの風味を豊かにします。紅茶を入れるのに同じティーバッグを何度も使うと、回数とともに色と風味が失われていくのと似ています。
この場合に重要なのは木材に残っている抽出成分の量です。未使用の樽は当然ながら使用歴がある樽よりも影響力があります。スコッチウイスキー業界では、新しい樽の抽出物のレベルが高すぎる可能性があるため、バージン樽または新しいオーク樽を使用する場合には細心の注意を払います。一部の蒸留所では抽出物のレベルを抑えるため、まずグレーン・ウイスキーを新しい樽に入れ、数年後これらの樽をモルトウイスキーの熟成に使用しています。